Home / Japanese / 経営資源 / IoTをめぐる 未来予測レポート2022年版

IoTをめぐる未来予測レポート2022年版

5G、サステナビリティ、「ニューノーマル」の影響でデジタル化が急速に進行

IoTをめぐる未来予測レポート2022年版

5G、サステナビリティ、「ニューノーマル」の影響でデジタル化が急速に進行

近年、さまざまな規模の企業がデジタルトランスフォーメーションを通じて進化しています。変化の速度は目覚ましく、衰える気配はありません。今後3年間のデジタルトランスフォーメーションは、新型コロナウイルスの影響、サステナビリティ、デジタル技術の進歩という3つの力によって加速します。

  • 新型コロナウイルスの感染拡大により、企業は、顧客の需要の変化に対応し、収益を維持するために、デジタルトランスフォーメーション計画を加速化するとともに、オンライン取引への移行を推し進めました。これによる効率の急激な向上は今後も続き、コロナ後は、需要の回復とそれに対応する生産性向上の時代になると予想されます。
  • サステナビリティに関して高い目標を掲げることは、今や企業の優先事項です。環境にやさしい製品に対する顧客需要や、新しい政策や温室効果ガス排出規制に適合する必要性が、積極的な行動につながっています。サステナビリティは資源利用の効率化によって改善されるのが一般的であり、デジタル技術はその効率化に大きく貢献します。
  • データセンターやインフラへの大規模投資のおかげで、高性能のコンピューティング、ストレージ、ネットワークが広くオンデマンドで利用可能となり、新しい製品やサービスの設計、試験、導入にかかる時間も短縮されています。同時に、5G、自動化、AI、クラウドなどの技術分野で大きな進歩がありました。
  • これにより企業は、ビジネスとデジタル市場の近接、クラウドコンピューティングによる効率的な生産拡大、人工知能を生かした資源や物流のスマートグリーン計画などの革新が可能となります。具体的に言えば、コネクティビティは今後もビジネスモデルの進歩を促し、視認性や制御の向上、ユーザーとの緊密な連絡、サービスの拡大を促進すると思われます。

この3つのマクロトレンドの組み合わせは、過去にない形で市場を変革する新しいビジネスチャンスを生み出す可能性があります。早期に可能性を見出し、顧客のニーズや商業的価値を理解してビジネスに革新を起こした企業が勝者となるでしょう。

変化のきっかけ

新型コロナウイルス、サステナビリティ、デジタル技術の普及。この3つの力が今後3~5年間の急速なデジタル化の基盤を作りました。イノベーションとデジタルディスラプションに絶好の追い風となったのです。

たとえば、デジタルトランスフォーメーションの柱の1つであるIoTを考えてみましょう。新しいコネクテッドデバイス(ネットワークに接続する機器)の可能性は大きく広がっています。今後数年間で5Gが世界に普及し、デバイスのエコシステムも急速に成長することを考えてみてください。ビジネスのイノベーションが進み、多くのIoTソリューションは「モニターと測定」から「制御と自動化」の段階へと移行するでしょう。これは、既存のビジネスモデルの見直しや新しいビジネスモデルの発見を通じてビジネスチャンスを創出し、業界全体を変革する道を開きます。

以下では、この3つの要因とそれらが未来の変化を促す理由について詳細に検討します。

加速要因としてのパンデミック

新型コロナウイルスは、家庭や仕事、社会生活を一瞬で変え、IoTソリューション、IT、自動化の導入を促進しました。業界を問わず、革新を起こし、新しい方法やチャネルで顧客と関わり、新たなサービスや体験を創出する上で、企業は技術の恩恵を大きく受けています。企業にとって今やデジタル化は最優先事項であり、リモートワーク、顧客の行動や期待の変化、サプライチェーンの耐久性向上に対応するために欠かせないものになっています

大きな変革を遂げている分野の1つに医療があります。医療従事者不足により、IoTソリューションの大規模な導入が必要となったためです。患者に食事や薬を届ける、部屋を消毒する、バイタルサインをリモートで収集するなどの業務に、ネットワークに接続されたロボットが使われるようになりました。今後は、自宅療養する患者が遠隔健康管理ソリューションを利用することで、病院のベッド数を確保したり、医療従事者の負担を軽減したりできるようになるでしょう。

新型コロナウイルスの財務的影響を見ると、米国企業は感染拡大の開始時より収束時のほうが収益性が上がっており、手元のキャッシュも増えています。そしてこのキャッシュを投資すれば、さらに成長を加速できます。『エコノミスト』誌によれば、クラウド、ビッグデータ分析、IoTが重要な成長要因となった分野では、急速な生産性の向上が新型コロナウイルスの影響を上回っています

新型コロナウイルスの影響は長く続くと思われます。企業は今後も、組織の再編、速度や効率の向上、顧客体験の改善に向けてデジタル投資を増やしていくでしょう。企業は、試験的プロジェクトから大規模なプロジェクトへと、さらに短期間で大胆に進むと予想されます。

サステナビリティ:環境に良いことはビジネスにも良い

サステナビリティはイノベーションの推進力であり、今では消費者、ビジネス、社会にとっての優先事項と考えられています。顧客は、購入する製品がどのように作られ、環境にどのような影響を与えるかといったことについて透明性を求めています。サステナビリティの高い、倫理的な方法で生産された製品にお金を使いたいという需要も高まっています。そして政府は、すべての業界に排出や天然資源の使用に関して厳しい法律を適用する傾向にあります。

このような状況の変化に対応し、企業は積極的なカーボンフットプリントの縮小目標を設定しています。これは、エネルギー効率を高めるとともに、持続可能な製品やサービスによって新しい収益源を作るチャンスでもあります。環境に良いことはビジネスにも良いということを、企業はすでに理解しているのです。

アクセンチュア社のグローバル調査によると、デジタル技術とサステナビリティの交点に新しい価値が存在することが分かっています。両方を活用する企業、名付けて「ツイントランスフォーマー」は、将来的に高い業績を収める可能性が2.5倍も高くなります。

エネルギー効率を例に挙げましょう。これはカーボンフットプリントを縮小する重要な要素です。同時に、経済的、環境的要因によって欧州とアジアでエネルギー価格が高騰している現在、事業的にも魅力があります。電力系統全体としてだけでなく、工場やオフィスでも、電力の供給と需要を正確に予測し、廃棄物を削減するために、AI技術やIoTソリューションの導入は今後さらに増えていくと思われます。

もう1つ、大きな影響を与える新技術が5Gです。エリクソン社によれば、発電、輸送、製造、建設などの高排出業界に5G技術を導入することは、欧州の道路から車を3,500万台減らす(または7分の1減らす)ことに匹敵します

企業は、今後数年間でますますデジタル技術とサステナビリティの交点に新たな価値を模索するようになるでしょう。

高度な技術をどこでも使える時代

IoTソリューションの導入はデジタルトランスフォーメーションの一環であり、技術の進歩や新しいインフラへの多額の投資によって大きく前進する分野です。つまり、今ではどこにでもコネクティビティがあるということです。

近年、NB-IoTとLTE-Mという2つのネットワーク技術が導入されました。いずれも、低コスト、低データ使用量、長バッテリー寿命(最大10年以上)で、遠隔地や地下などの電波が届きにくい場所で運用することが多いIoT機器のニーズに対応するために設計されたものです。これにより、農業、公益事業、物流、その他の業界で新たな用途の可能性が広がっています。また、世界的に2G、3Gネットワークが廃止に向かう中、NB-IoTやLTE-Mがそれに代わっていくのは明らかです。特にLTE-Mは自動車などの動く機器には有用な選択肢で、音声技術にも対応しています。

もう1つの大きな転換は5Gネットワークの世界的な普及です。5Gの大きな利点6は、コネクテッドカーからリモート手術まで、IoTの用途に応じてネットワークをプログラムできることです。このような新しいコネクティビティ技術は、速度、レイテンシ、バッテリー寿命の技術的パラメータの改善をもたらすだけではありません。使い方を見直し、新しい用途や収益源を生み出すなど、イノベーションのきっかけにもなります。たとえば、テレマティクスから自動運転車にコネクティビティの利用方法を転換するなどです。

コネクテッド製品の世界展開を計画する企業にとって、各国のコネクティビティを確保するのは容易ではありません。主な手段の1つはローミングですが、地域によってはデバイスを90日以上ホストネットワークに接続する「パーマネントローミング」を規制当局が禁止しています。現地のコネクティビティプロバイダーを選択できるeSIMソリューションの導入と普及が進めば、企業にとってコネクテッド製品を世界展開し、コストを最適化する選択肢が増えると期待されます。

新しい技術により、企業はサービス、製品、ビジネスモデル、市場化戦略の改善など、商業的な側面により重点を置くことができるようになります。

革新を通じたトランスフォーメーション

利用ベース保険

走行状況に応じた自動車保険は、公示速度の順守を促し、事故率の低下につながります。メリットは保険会社にも加入者にもあります。保険会社にとっては保険の支払額を下げられる可能性があり、加入者にとっては保険料率が良くなります。

企業は、高度なデジタル技術を通じて自己改革を図り、サービスや顧客体験、ビジネスモデル、効率のレベルアップ、しかも持続可能な形での改善を目指しています。これに利用可能なデジタル技術は数多くあります。たとえば、自動化やクラウド、AI、IoTソリューション、ビッグデータ分析、デジタルコマースなどです。これらは多くの場合、併用されます。

本章では、IoT主導型のイノベーション、およびそれが企業にとってどのようなビジネスモデルや製品・サービスの改革につながるかに注目します。いくつかの事例やサンプルを選んでご紹介しましょう。

ビジネスモデルと用途の改革

害虫駆除に変革をもたらしたAnticimex

Anticimexは100年近い歴史を持つ害虫駆除のリーディングカンパニーです。同社はデジタル技術の導入を通じて、効率的で持続可能なソリューションに向けた業界全体の変革の最前線に立っています。

これまで長い間、害虫駆除には毒を仕込んだトラップが使われてきました。この方法ではトラップを常に手作業でチェックする必要があり、害虫の根絶にもそれほど有効ではありませんでした。しかし、IoTはその状況を一変します。

Anticimexは、害虫駆除・監視専用に設計したIoTデバイスにより、害虫駆除活動を監視および分析しました。将来的な問題を早期に発見することで迅速に対応し、害虫の根本的な原因を突き止めることができます。このため最終的には、さらなる問題が発生するリスク、コスト、殺虫剤の使用量を下げることになります。アクティビティデータの取得と分析の両方に対応するソリューションの開発により、Anticimexは顧客価値を大幅に高めました。もう1つの大きな利点は、環境に有害な毒物の使用を最小限に抑える、または完全に不使用にできることです。

イノベーションが加速する自動車業界

自動車業界は、テレマティクスの早期から、エンドユーザーのニーズに応じてさまざまなコネクティビティに対応する現在に至るまで、コネクティビティの最先端と言われています。コネクテッドカーは、自動車業界に有益なだけでなく、保険、駐車場、エンターテインメントなどの業界にもチャンスをもたらします(「利用ベース保険」の囲み参照)。小売業者でさえ、自家用車のトランクに商品を配送する「in-car delivery」サービスを提供することで付加価値を生み出すことができます。

現在、自動運転車は主にオンボードセンサーと処理機能によって先進運転支援システム(ADAS)を制御しています。5G接続が普及すれば、自動運転車は車間通信やエッジデータ処理などの高度な機能にも対応します。5Gは低レイテンシのため、情報はほぼ瞬時に送信され、ブレーキの指示など予防的な安全対策もリアルタイムで提供できます

IoTは自動運転車の乗り心地を変えるだけでなく、所有の概念も覆そうとしています。都市に住む人が増えるにつれ、車を所有する必要性はさらに低下すると予想されます。そこで登場するのがカーシェアリングなどのモデルです。このような場合、車両へのアクセスや追跡、利用量の測定には主にセルラーIoT接続を使用します。その利点は2つあります。車を必要とする人が車を利用できることと、資源利用の最適化やカーボンフットプリントの縮小によってサステナビリティが向上することです。

ソーラーパネル:ピアツーピアのエネルギー取引

公益事業に携わる企業は、高速、セキュア、かつ安定した双方向通信で都市部や地方にあるメーターにアクセスする必要があります。LTE-M技術を使用した新しいソリューションでは、従来のソリューションの1日1回に比べ、1分に1回のより頻繁な読み取りが可能です。また、帯域幅が広いため、より大きなデータを伝送でき、レイテンシはミリ秒単位に短縮されます。このためエネルギーの生産と需要のバランスを取りやすく、電力系統の分析と最適化も改善されます。さらにIoTは、取得したすべてのデータを活用する機会をエンドユーザーにも提供します。たとえばソーラーパネルによる発電を考えてみましょう。これには、電力系統の接続とスマートメーター、エネルギー取引に関与する企業、ソフトウェアレイヤー、そして最後に何よりもコネクティビティが必要です。ソーラーパネルの所有者は現在、ピアツーピアのエネルギー取引により、残った電力を換金するほか、グリーンエネルギーの提供によって持続可能な社会に貢献できます。この市場は将来的な成長が期待されています。

将来のイノベーション

厳しい要求を突きつける顧客、新しいテクノロジー、革新的な企業。そのすべてが新しい用途のきっかけとなります。一部はすでに実現し、まもなく実現が見込まれるものもあります。

ドローン:ドローンによる配送は、便利に商品を受け取れるだけでなく、環境的な利点もあります。ドローンのカーボンフットプリントは配送トラックほど大きくありません。また、コロナ禍が過ぎても人と接触しない配送は続くと思われます。将来的にはドローン技術がラストワンマイルの配送を担うと期待されています。配送だけでなく、ドローンは街から遠い地域やアクセスの難しい地域で、林業や鉱業関連の検査にも利用されるようになるでしょう。農業分野では、作物への施肥を容易にしたり自動化したりするためにドローンを利用するといった用途が生まれています。

医療:患者のリモートモニタリングはすでに実現していますが、将来は5Gによってさらに強化されるでしょう。これは最終的に患者へのサービス改善につながります。5Gネットワーク上のコネクテッドデバイスが増えるにつれ、さらなるイノベーションが期待されます。たとえばコネクテッド救急車なら、患者のデータや動画をリアルタイムで受け入れ病院と共有し、患者が到着する前に医療従事者と連絡を取り、搬送中に救急救命士をサポートできます。これは全体として患者のケアの効率と有効性を高めることになります。

サプライチェーンと物流:サプライチェーン管理において重要なのは、輸送の透明性です。IoTのおかげで物流は、単なる配送日の予定から、ラストワンマイル配送のリアルタイム追跡へと進歩しつつあります。将来的には荷物の配送状況だけでなく、より透明性の高い輸送が実現するでしょう。IoTは、荷物の開封形跡や所定の輸送温度の順守に関する透明性も確保します。これらはすべて配送に関する重要な情報です。

時代を先取りする

新型コロナウイルスの感染拡大は、企業のデジタル化を加速しました。同時に、大規模な技術インフラ投資がデジタルハイウェイの構築を加速化し、5Gに支えられた革新的なソリューションへの投資をさらに促進しています。そしてどちらも、サステナビリティに関する規制とイノベーションの緊急性を裏付けました。

IoTを含め、技術があらゆるソリューションの構築を可能とする現在、その流れに乗り遅れる理由はありません。つまりこれは、次のイノベーションの鍵がIT部門ではなく、新しいビジネスのアイデアを育む商業部門にあることも意味します。

もちろん途中に困難もあるでしょう。企業はデジタルスキル不足に対処する必要があります。スキル不足を埋めるだけでなく、エンドツーエンドのサービスを提供するサプライヤーが求められています。たとえば、IoTマネージドコネクティビティやシステムインテグレーションを通じて必要なデジタル技術を全部合わせた完全なソリューションを提供するサプライヤー、あるいは業界、戦略、分野を総合的に理解したパートナーなどです。

企業が今から着手すれば、時代を先取りし、業界のイノベーションを後から追いかけるのではなく先手を打つことで、競争上の優位性を得ることができます。着手が遅ければ長期的に大きなリスクを負うことになるでしょう。